福祉とデザイン研究会の「実践」 いざ、キックオフ!
誰もが孤立せず、多様な社会参加ができる地域共生社会をめざして。
滋賀県長浜市の地域共生社会を実践から考える「インクルーシブデザインチャレンジ!」と実践プロジェクトがこの夏、スタートしました。

インクルーシブデザインチャレンジって?
インクルーシブデザインチャレンジは、長浜市社会福祉協議会が主催する「福祉とデザイン研究会」の市民参加型の公開セミナー。「福祉の課題は、福祉の分野で解決する」と考えがちですが、別の分野の人たちとのコラボレーションによってより良い解決をめざすことが狙いです。
インクルーシブデザインとは…
高齢者、しょうがい者、外国人、生きづらさを抱える人など、これまで製品やサービスのデザインプロセスから除外されてきた多様な人々を、巻き込みながら進めるデザイン手法のこと。「インクルーシブ(inclusive)」は「包摂(ほうせつ)的な、すべてを包み込む」という意味を持つ言葉。
そして、インクルーシブデザインの実践プロジェクトとして、福祉分野と他分野が協働する3つのチームが約1年をかけてそれぞれの具体的な課題に挑み、実際に製品やサービスをつくりあげていきます。
3つのチームの歩みと公開セミナーの様子をこちらで追っていきますので、どうぞお見逃しなく。
先輩実践者たちの言葉を聞く
公開セミナーでは、インクルーシブデザインの専門家を招き、3つの実践プロジェクトチームに対してアドバイスやワークショップが行われます。
6月17日に長浜カイコーで開催された第1回公開セミナー「キックオフ&ワークショップ」の様子をのぞいてみましょう!
講師は、インクルーシブデザインの実践の先輩とも言える一般社団法人シブヤフォントの古戸勉さん、ライラ・カセムさんのお二人。
一般社団法人シブヤフォントとは…
渋谷でくらし・はたらくしょうがいのある人と、渋谷でまなぶ学生が共に創り上げた文字や絵柄をフォントやパターンとしてデザインしたパブリックデータとして公開、活用する産官学福の渋谷発・日本初のソーシャルアクション。

アートディレクターのライラさんは、インクルーシブデザインは「未来の自分たちのためのデザイン」だと話し、「誰でもいつかは高齢者になり、どこかにしょうがいを負う。共存していく意識でものづくりをしましょう」と語ります。
そんなものづくりの出発点は、「共通点を見つけること」なんだとか。
例えば、車椅子ユーザーと警備員とスケボーを楽しむ人。彼らの共通点はなんでしょう?
ライラさんの考えた共通点は、「貴重品の携帯が必要」「通気性のある服が必要」。共通の困りごとを具体的に想像することで、「一点もの」で終わらず拡張性がある、つくるべきものが見えてくるようです。
共通のニーズが見えたら、デザインの段階から当事者の視点を取り入れることも大切です。「当事者、支援者、デザイナーたちがそれぞれの知識やスキルをかけ合わせ、お互いから学びあうことを意識できれば、おもしろいアイデアが出てくるはず!」とライラさん。

就労継続支援B型事業所長として35年間福祉にたずさわる古戸さんは、シブヤフォントの活動について、「定期的に学生やデザイナーが事業所に訪れるようになって、風通しがよくなり、スタッフのモチベーションにもなりました」と振り返ります。
しょうがいのある人に出会わずに社会人になっていく学生たちは、同じ社会に生きる人たちのことを理解する機会がありません。当然「どうやって生活しているの?」「え、喋れるの?」という反応になってしまうといいます。
だからこそ、シブヤフォントの活動で少しでも「知ってもらう」ことをめざしているのだそう。長浜でのインクルーシブデザインチャレンジも、そんな機会になっていくかもしれません。
3つの実践チーム
講師のお二人の話を聞いたあとは、実践プロジェクトチームに分かれてのワークショップ。
「デザインロードマップ」の作成に取り組みました。
デザインロードマップとは…
・解決したいこと/もやもや・課題
・モチベーション/なんのために?
・活用できるリソース&スキル/メンバーができること
・だれにむけて/ターゲット
・やってみたいこと/青天井
これらの要素をつなげて考える、デザインのための道筋のこと。
3チームがこのプロジェクトで挑戦する課題と、今回作ったロードマップを紹介します。
発達しょうがいを持つ子どもたちの就労のあり方を考える。

このチームは、発達しょうがい児と職場のより良い就労マッチングがテーマ。
発達しょうがいの子どもたちの子育てを応援するサークル「オレンジスマイル」のメンバーに、デザイナーとして「星と道草」が加わります。
しょうがいがある子どもたちには就職先を探すタイミングでの情報や選択肢が限られていることに課題を感じ、いろいろな選択肢の中から自分の可能性を探す機会をつくることを目標にしているチームです。
このチームのデザインロードマップ

音楽を活用した介護予防を考える。

このチームのテーマは、音楽を活用した“楽しい”介護予防活動。
介護予防事業を行う長浜市社会福祉協議会のスタッフが、楽器販売や音楽スクール運営をする「イケダ光音堂」とコラボします。
コロナ禍で高齢者の居場所づくりが難しくなり、介護予防サロンの内容もマンネリ化していることが課題。音楽を活用した新しい介護予防の体操をつくり、動画にして広めていくことを目指します。
このチームのデザインロードマップはこちら

インクルーシブデザインをとりいれた商品開発に取り組む。

3つめのチームは、インクルーシブデザインの視点でつくる商品開発をテーマにしています。
主に車椅子ユーザーのための衣類の開発・販売をしている「マルチスイッチ」が、商品企画・開発の専門家の荒井恵梨子さん、服飾デザイナーのワタナベユカリさんと一緒に、新たな商品を生み出します。
荒井さんの「これまで開発した商品にマイノリティの視点が入っていなかった」という気づきから、当事者を巻き込んだ商品開発を実践してみることになりました。

そんな3つのチームに、最後にライラさんから出された「宿題」がこちら。
・チームに名前とキャッチコピーをつける
・ロードマップの完成
・モックアップ(ラフ)の作成
この宿題については、9月の公開セミナーで発表がありそうです。その様子もこちらでお伝えします!
公開セミナーの様子












今後のスケジュール
これからそれぞれのチームでどんな取り組みが進んでいくのでしょうか。みなさん、ぜひ応援してください。
各チームの取り組みを詳しく聞いてみたい!と思った方は、下記の公開セミナーに聴講者としてご参加ください。
(各回15名、先着順)


記事執筆/ Sakura Funasaki 撮影/Miwako Yamauchi