インクルーシブデザインの実践プロジェクトでは、福祉分野と他分野が協働する3つのチームが、約1年をかけて実際に製品やサービスをつくりあげていきます。記事でも各チームの取り組みを追っていこうと思います。
今回は「suinner(スイナー)」チームの活動を紹介します。
※チームの名前については、9月2日の公開セミナーで各チームから発表があります。セミナーのレポート記事でご報告します!
テーマ
インクルーシブデザインの視点でつくる商品開発
メンバー
マルチスイッチ (車椅子ユーザーのための衣類の開発・販売)
ワタナベユカリ(服飾デザイナー)
荒井 恵梨子(商品開発・企画)
お茶やシロップ、薬草風呂の入浴剤など、湖北の地域資源を使った商品開発に携わってきた荒井恵梨子さん。「これまでの商品開発の過程ではマイノリティの視点を入れていなかった」という気づきから、今回のプロジェクトへの挑戦をスタートさせました。
車椅子ユーザーが快適に、おしゃれに過ごせる洋服を2020年からオーダー製作している「マルチスイッチ」の代表である木村寛子さん、服飾デザイナーのワタナベユカリさんと一緒に、新たな商品を作り上げていきます。
作るのは「割烹着のようなジャケット」!?
真夏のある日、木村さんのご自宅にメンバーが集まり、具体的な商品のイメージを話し合うことになりました。第一回セミナーなどで議論をしたことで、「車椅子ユーザー向けの新しい洋服を作りたい」という方向性は決まってきているようです。
まずは車椅子ユーザーの木村さんが、しょうがい当事者のファッションについての課題を話します。
「福祉の世界での『服』は、福祉用具と同じ扱い。値段も高いし、正直ダサいと思うことも…。デザインする人が製作過程に入っていないからだと思う」
「しょうがいがある人は外に出かけたくても、外出しにくい課題がある。外に出て、みんなに見せたくなるような服を作りたい」。そんな思いがマルチスイッチを始めたきっかけなんだとか。
この思いを共有したデザイナーのワタナベさんが、具体的な商品のイメージを膨らませていきます。
どんな場面で着る服がいいか、素材はどんなものが良さそうかなど、みんなでワイワイとアイデアを出し合ううちに、「秋〜冬に会議などでも着られるオフィスカジュアルの雰囲気のジャケット」という案にまとまりました。
木村さんからは「筋肉や関節が動きにくい人だと、服を着る時に腕を後ろに伸ばすことが難しいんです。それとカーディガンやボタンの付いたシャツなどセンターが決まっている服は、どうしても着ているうちに回転してズレてしまう」という意見が。
「それなら、割烹着のように背中が開いていて、前から腕を入れて着る形だと脱ぎ着しやすいですよね。同じ形で男女どちらも着られるデザインができる気がします!」とワタナベさん。すでに服のデザインが頭に浮かんできているようです。
とまらないアイデア
一つ形が見えてくると、次から次にアイデアが湧き出してきます。
アイデアは、ジャケットだけでなくジャケットに合わせるボトムスの話にも広がっていきました。
車椅子ユーザーはリハビリパンツを使う人もいるため、「大きいサイズのジャージを履く人が多い」と木村さん。
おしゃれで、脱ぎ着がしやすく、トイレを利用するときにも便利なデザインを検討します。
「お尻のところは褥瘡(床ずれ)の予防のためにジャージのような柔らかい素材で、縫い目もなくしたい」
「草刈りをする時に使うエプロン型のズボンだと、おしりの部分が開いていていいかも」
「前面にはセンタープレスを入れて、かっちりしたボトムスに見えるといい」
「女性用のツナギで腰の横にファスナーがついていて、開いて簡単に下ろせるものがあった」
当事者ならではの視点と、デザイナーや専門家ならではの知識を交換しながら、この日の会議は無事に終了しました。
それぞれのアイデアに「いいね」が止まらず、盛り上がった今回の会議。
今後は、ワタナベさんのデザイン案をもとにジャケットの試作を行い、市内のしょうがい当事者の方たちに試着をしてもらって課題をさらに見つけていくことに。
「試着の反応が楽しみ」「反応がもらえると一番嬉しいですよね」。ものづくりに携わるメンバー同士が共感し合って、さらにチームワークも高まっているようでした。
どんな洋服が生まれるのでしょうか。次回もお楽しみに!
文・船崎 桜