インクルーシブデザインの実践プロジェクトでは、福祉分野と他分野が協働する3つのチームが、約1年をかけて実際に製品やサービスをつくりあげていきます。記事でも各チームの取り組みを追っていこうと思います。
今回は「グッジョブ×ジョブ」チームの活動の様子をレポートします。
※チーム名の由来が気になるところですが、そちらは9月2日の公開セミナーで発表があります。セミナーのレポート記事でご報告します!
テーマ
発達しょうがい児と職場のより良い就労マッチング
メンバー
発達しょうがいの子どもたちの子育てを応援するサークル
「オレンジスマイル」
デザイナー「星と道草」

発達しょうがいのある高校生の息子さんを持つオレンジスマイル代表の森秋子さんは、今まさに、親子で就労の壁にぶつかっていると言います。息子さん本人は重いものを運ぶのが得意なことから、運搬配送業を希望。ですが学校からは福祉系の仕事を勧められています。森さんも「息子の性格には福祉系が合っているかも…」と感じていますが、なかなか本人にとって「働く」ということのイメージが難しく、どんな仕事に適性があるかを自分で想像しにくい状況なのだそうです。
そんな中、職場のアルバイトの学生から出た「インターン」「就活」などの言葉を聞いて、「しょうがいのある子どもたちにはそんな機会がない」と気付いた森さん。「どんな子でもいろいろな選択肢から可能性を探せるチャンスをつくりたい」と、今回のインクルーシブデザインの実践にチャレンジすることになりました。
制度の「隙間」の子どもたちのために
7月にあったチームでの会議を覗いてみました。

まずは、今回の取り組みで、誰をターゲットにするか?が議題に。
しょうがいがある子どもの中でも、特別支援学校に通っていれば特性に合わせた卒業後の就労についての支援がある一方で、一般校に通う子どもたちや、いわゆる「グレーゾーン」の子どもたちには就労支援が届かず、困っているのではないか、という意見が出ました。
「一般校から勧められた求人にそのまま就職した子が一番困っている印象です。数ヶ月で、本人も会社も悲鳴をあげてしまうこともあります」と話すのは、しょうがいのある人の就業支援などを行う「はたらき・くらし応援センターこほく」 センター長の阿藤誠介さん。公的機関からのアドバイザーとして、チームに参加します。
公的支援の「隙間」にいる子どもたちを主なターゲットにすることが決まり、具体的な内容を検討します。これまでの会議で、「職場の様子がわかる動画を見てもらう」という案はまとまっているようです。
動画で動線、音、雰囲気を伝える
なぜ動画なのでしょうか?
例えば工場での製造業であれば、「ものを作る仕事」という文字での説明だけではイメージが難しいですが、動画で「8時間ほど、立ったまま、同じ作業を繰り返す」様子を見ることで、具体的に自分がその仕事をするイメージができるようになります。
森さんから、オレンジスマイルの親御さんたちからの意見では「職場のフレンドリーさ」「作業する机やロッカーの大きさ」「休憩場所の騒がしさ」「服装」「職場内の動線」を知りたいという声が多かったと報告がありました。本人が具体的にその場の空気感や自分の動きを想像できる内容が求められているようです。
単に仕事内容だけでなく、その職場のことがわかる2〜3分に短くまとめた動画をいくつか作ってみることが第一目標になりました。
阿藤さんからは「動画撮影はNGという企業も多いと思う。例えば同じフロアで働く人数や、休憩時の環境など、本人がどんな環境がいいと思うかをカードを使って選んでいくのはどうでしょう」と提案も。これも企業とのマッチングを考える大きなヒントになりそうです。

森さんは「その仕事で何をどうやるのかが具体的にわからなければ、イメージすることも選ぶこともできない。自分は何に向いているだろう?と考える機会をつくることで、『もしかしたらこんな仕事が好きかも』に気づいてほしい」と話します。
まずは自分の可能性の選択肢を増やすために「知る」。そのステップを充実させていこう、ということでまとまりました。
今後は、職場の動画やマッチングのためのカードを作って当事者の子どもたちに試してもらい、ブラッシュアップを進めていくことに。
またこちらで活動の様子をレポートします。お楽しみに!
文・船崎 桜