インクルーシブデザインの実践プロジェクトでは、福祉分野と他分野が協働するチームが、約1年をかけて実際に製品やサービスをつくりあげていきます。
今回は2024年度から研究会に加わったチーム、「わだちプロジェクト」。レポート第1弾では、わだちプロジェクトが生まれた理由について深掘りします。
「伝わらない」に向き合うために
「障害のある人が生きづらさを感じるのは、本人の問題ではなく社会に原因がある」。
この“障害の社会モデル”の考え方を、より広げていきたいという思いが「わだちプロジェクト」の原点でした。
このプロジェクトの当事者でもあるNPO法人CILだんない代表の美濃部裕道さんは、2009年の法人立ち上げ以降、「障害者が地域で自立生活を送ることができるようにしたい」という願いのもと、障害福祉サービス及び介助者派遣事業やヘルパー育成事業などに取り組んできました。
そして、同時に「僕らの時代で、障害の社会モデルが当たり前になる社会に変えていきたい」という思いを胸に、寸劇を活用した講演、さまざまな方法で発信を続けてきました。中には涙を流してくれる観客もいて、伝わる手応えもあったそうです。けれど、活動を続けていく中で、気になっていることがありました。
「関心のある人には届いている。でも、全く関心のない人には届かない」。
たとえば、『夜中コンビニ前に集まる若者』など、自分たちから“遠いと感じる存在”に対して、自分たちのメッセージが届きようがない、という現実に限界を感じるようになりました。
「もっと多くの人を巻き込んで、違う立場の人にも入ってもらって、伝え方を変えていかないといけない」
そんな思いから、志や目的を同じとするメンバーに声をかけ、2024年4月に立ち上がったのがわだちプロジェクトです。

黒壁エリアで見えた、まちと福祉の交差点
関心がない人にも自然に届くようなアプローチを考えるために、はじめに実践を行ったのは長浜市の中心市街地であり、観光地でもある「黒壁エリア」です。
最初の実践は、2024年6月。この日は、黒壁エリア中心部の公園で、道ゆく観光客や街の人々に電動車椅子を運転してもらい、段差や坂道、ドアを抜ける体験をしてもらいました。この日は20名ほどが体験しました。
福祉とデザイン研究会にはその体験会に参加した研究会コーディネーターからの声掛けがきっかけで参加することに。
そして、わだちプロジェクトの会議に長浜市社会福祉協議会のスタッフも加わり、議論を重ねる中で、「街中での実践を進めるなら、まちづくりに関わる企業やデザイナーにも関わってもらおう」というアイデアが出ました。
議論の結果、まちづくりの視点を取り入れるパートナーとして、「長浜まちづくり株式会社」にデザイナーとして参画することが決まりました。まちの景観や観光といった日常のなかに、福祉の視点をどう組み込むか。
それは、特別な場や限られた人の取り組みではなく、「誰かの困りごと」が、まち全体のデザインに反映されることを目指す試みです。
観光客、地元の人、デザイナー、そして福祉の実践者たちが交わることで、これまで届かなかった人にも、やさしさや気づきが少しずつ”にじんでいくよう”に伝わる仕掛けが生まれるかもしれません。
「伝わらない」から「伝わりはじめる」へ――次なる実践に向けて

デザイナーとして「長浜まちづくり株式会社」が加わり、次の実践の舞台に決まったのは地域の日常が集まる場所、スーパーマーケットです。
2024年夏。10月上旬のイベントの実施を目指して、準備が進められていました。
6月の黒壁エリアでの実践を振り返る中で、特に話題になったのは「関心のない人に届いていただろうか?」という問いでした。そこから自然と、次の実践内容についての議論が始まっていきました。
特に中心となったテーマは、「関心のない人に、どう伝えるか」。
“生きづらさ”を正面から伝えようとすると、それを受け取る側が「しんどい」と感じてしまうこともあるのではないか。
それならば、「生きづらさ」よりも、自分たちの得意なことや、障害があるからこそ得られた視点や強みを共有する方がいいのでは—そんな意見が交わされました。
誰もが持つコンプレックスや悩みを、「強み」へと変えることができたなら。
きっと人はもっと、自分らしく、楽しく生きていけるのではないか。プロジェクトメンバーの一人が、対話の中でそう話します。
その言葉に、美濃部さんは自身の経験を語ります。
「自分たちは、もはやコンプレックスという次元を超えている。誰かとすれ違うときにジロジロ僕を見る。それが昔は嫌だったけど、ある時『もっと見たらええ』と思えた瞬間があった。僕はもともと、話すのも嫌やった。でも、言語障害を伝える意味があると思えるようになってから、少しずつ話せるようになった。話す時の説明が端的になったのも、言語障害があるから。これはひとつの、自分の“生きる術”なんやと思う。」
「困りごとをアイデアのタネに。」
福祉とデザイン研究会の根本にあるこの考え方とも重なる言葉でした。
議論を重ねるうちに見えてきたのは、「無関心」というのは、結局“知らなさすぎる”ということなのかもしれない、ということ。
社会には、例えば身体が不自由な人や生活にサポートがある人にとって「生きづらさ」につながってしまうさまざまな障害があります。けれども、その生きづらさに対して、それぞれの人が生きる術を見出し、自分の強みや特技に変えていることもまた事実です。
それでも、個々の「努力」では解決できない社会のハードルをなくしていくためには、「気づかない」人々に少しでも伝えていく必要があるのです。
社会にある「障害」を、他人事ではなく、自分ごととして感じてもらうためには、どんなコンテンツが必要なのでしょうか。新たな一歩に向けて、多くの人々の日常にそっと入り込む、そんな実践の準備が進んでいきました。
この記事を書いた人 | 荒井 恵梨子(福祉とデザイン研究会コーディネーター)
