インクルーシブデザインの実践プロジェクトでは、福祉分野と他分野が協働する3つのチームが、約1年をかけて製品やサービスを生み出していきます。
今回は、「わだちプロジェクト」の第3弾。
2024年6月から2025年3月までの実践を通して見えてきた「変化」をレポートします。
わだちプロジェクトは、「障害の社会モデル」の考え方を、全く関心のない人にどう伝えるか──そんな問いから始まりました。研究会を通じて、長浜まちづくり株式会社など、これまで福祉の現場で接点のなかった人たちと活動を共にすることに。そこから、互いにとって新しい気づきが生まれていきました。
「見えないカーテン」の向こう側

デザイナーとしてプロジェクトに参加した長浜まちづくり会社の山田さんは、美濃部さんはじめ、CILだんないの関係者と接点を持ったことで「発見と共感があった」と語ります。たとえば、美濃部さんが餅つきをする際、足をつかって餅をつく姿を見て、「誰もが生活の中でさまざまな工夫をしているのと同じだ」と感じたそうです。
山田さんはプロジェクトに参加するまで「障害がある人は、しんどい思いやつらい経験をしているのだろう」と無意識に思っていたといいます。
しかし関わりを深めるうちに、その認識が思い込みだったことに気づきました。そのことで、「こうすればもっと楽しいのでは?」という提案を積極的にできるようになったといいます。
山田さんはこうも話します。
「こうした勘違いや思い込みは、互いを知らないことから生まれる。わだちプロジェクトは、知らない人同士の間にある“見えないカーテン”を開く取り組みなのだと思う。」
そのカーテンを開くことができれば、”伝わらない”を乗り越えて、他者への共感や想像を広げられるのではないでしょうか。
新しい視点をくれた対話

美濃部さんは、もともと「関心のない人に社会モデルをどう伝えるか」という視点でわだちプロジェクトを立ち上げました。
これまでも福祉分野での活動は行ってきましたが、福祉以外の分野の人たちと深く関わる機会は限られていました。研究会の参加をきっかけに山田さんとの対話を重ねる中で、「自分はこう見られているのだろう」という漠然とした感覚が、より具体的な理解へと変わったといいます。
多数派の価値観や行動が基準となりやすい社会の中で活動を広げていくには、異なる分野との協力が欠かせない─その必要性を、これまで以上に強く感じていたそうです。その中で、研究会をきっかけにデザイナーである長浜まちづくり株式会社とつながったことは、美濃部さんにとって大きな変化でした。
「突破口が開いた」
美濃部さんはそう語ります。異なる分野と交わることで、これまで届かなかった人たちにも関心を持ってもらえる可能性が広がったのです。
無関心層に届けるための試み
2024年の1年間、わだちプロジェクトは街中やスーパーなど、日常の場での実践を重ねてきました。黒壁エリアでの車椅子体験や、スーパーでの「スナイパーボーリング」など、誰もが気軽に参加できる体験を通じて、福祉や社会モデルの視点を届ける工夫を模索してきました。
その中で見えてきたのは、「伝わらない」というのは無関心な層が知ることを拒否しているのではなく、相手のことを「知らなすぎる」ことから生まれている、ということ。だからこそ、誰かに伝えるためには、身構えることなく参加でき、自然と興味が湧く仕掛けが重要だと再認識しました。
わだちプロジェクトの活動は、まだ始まったばかり。
これからも、他分野の人々と手を取り合い、「困りごとをアイデアのタネに」変える取り組みを続けていきます。目指すのは、関心の有無を超えて、誰もが他者への想像力を広げられる社会。そのためのコンテンツづくりが、これからも続きます。

次への実践へ向けて
「スナイパーボーリング」は想定以上に多くの人が参加し、楽しい雰囲気を作ることができました。そのことで、これまで関わる機会の少なかった人々とゲームを通じてコミュニケーションをとることができたという実感がありました。
一方で、メンバーの間にはこんな問いも残ります。
「私たちが伝えたいことは、きちんと届いていただろうか?」
「ただ楽しいだけで終わらせていいのだろうか?」
この問いに向き合いながら、次回以降は「ゲームをきっかけに伝わる仕掛け」をどう組み込むか、検討が続いていきます。
「関心のない人たちにこそ、福祉や社会モデルの視点を届けたい」
その思いは、「関わる」ことを通じてどのように広がっていくのでしょうか。
この記事を書いた人 | 荒井 恵梨子(福祉とデザイン研究会コーディネーター)
