【実施概要】
日時 2022/10/25(火) 18:30-20:00
場所 長浜カイコー
参加者 23名
認知症とデザイン
「福祉とデザイン」をテーマにしたセミナーシリーズ、「福祉とデザイン」研究会 2022を開催しています。
第二回は、水内 智英さん(名古屋芸術大学准教授 アート&デザインセンター長)と鬼頭 史樹さん(名古屋市北区西部いきいき支援センター ソーシャルワーカー)をお招きし「認知症とデザイン」というテーマでお話頂きました。
今回のセミナーには、福祉分野の最前線でご活躍される方やクリエイター、学生など、様々な方が市内・県内・県外から23名ご参加されました。
ゲストレクチャー 水内 智英さん 鬼頭 史樹さん
前半では、鬼頭さんが考える認知症への認識と携わった事業についてお話頂きました。
日本に、600万人いる認知症の方。これは日本にいる小学生と同じ人口規模です。認知症は、「一度正常に発達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態」と言われていますが、それは環境の要素が大きいと鬼頭さんは話します。例えば、空間把握の苦手でドアの鍵の施錠に苦戦していた当事者が、スマートロックを使い携帯へのタップのみで簡単に施錠出来るようになる。工夫やテクノロジーなど、環境を変えることで何かが起こると言います。
次に、認知症当事者と多様なステークホルダーの出会いや学び合うことの意義を、野球好きな当事者と地元中学野球部との交流事業をもとに説明頂きました。この混ざり合いで参加者は、共に楽しみ、学び合い、生きる力をお互いに身につけていくことができた。また当事者や中学生、コーディネーター、地域住民、メディアなど場に参加する全ての人が学び合いの中で共生の福祉文化を創造していた。今まで掴みどころが無い概念でもあった地域共生社会というものの手触りを感じることが出来た場だったと鬼頭さんは振り返ります。そして、そこから「その人 に 何が出来るか」という観点で当事者に関わるのではなく、「その人 と 何が出来るか」という考えが強まったと話します。
続いて紹介頂いたのが、認知症フレンドリーコミュニティの事業について。有識者懇談会という場で、靴下を履くことに苦労している当事者と靴下を作る企業が出会い、生まれた靴下プロジェクト。これまで認知症を「関係ない(他人ごと)」と捉えていた企業が認知症を「自分ごと」として捉え直した機会になり、また「靴下を自分で履けること」は人としての尊厳に関わる大切なことという、これまで企業側が気づいていなかった新たな価値を見つけるきっかけとなったと話します。靴下企業の社長の方は、「社会課題に取り組むということはマイナスをゼロにすることではなく新しい価値を生むことだ」と話したと言います。当事者も企業の方も喜んでいたからこそ、このような体験や変容のプロセスをどうしたらまちに広げられるか、現在鬼頭さんたちは探索しています。
後半では、水内さんと鬼頭さんの活動の中で大事にしている観点をお話頂きました。
まず、コミュニティで実際にモノを一緒に作っている点。自分にとって関わりがなかった当事者とその周りの人が一緒に同じモノを作ることでギャップが埋まっていく。こういった仕組みが少しずつまちに広がっていくことが、まちの環境が少しずつ良くなっていく。そしてそれがまちを出歩く人が増えることに繋がり、新たな共同の可能性が生まれると話します。
そして、多様な主体がフラットに参加することが出来る場であり、かつ計画性が緩く、失敗の許容出来るプロジェクトを生み出しうる会議体であることもポイントだと考えます。今までの認知症に関する会議では、医者をピラミッドの頂点と考え、実際の当事者の意見とは離れた側面を持つ話し合いの場になるケースがあった。専門家主導ではなく当事者主導の場を作ることを意識したと鬼頭さんは話します。また、方向性やスピード感の異なる主体同士が、まずは関係性をつくること、そしてそのズレを受け入れるゆとりを持つ点に価値があると水内さんは考えます。
グループに分かれてお話 / 質疑応答
グループに分かれ、学びの振り返りと感想の共有をした後に質疑応答の時間が設けられました。「どうすればイレギュラーを受け止めることができるのか?」「wantが明確でない当事者にどのように関われば良いのか?」「水内さん自身がデザインの専門家として関わるにあたって気をつけていたことは何か?」などの問いに対してお答え頂きました。福祉をメインフィールドに活動している方だけでなく多様なバックグラウンドを持つ参加者同士が交流することを通じて新たな問いが育まれるような場になりました。
記事執筆/ Takuho Soejima 撮影/Miwako Yamauchi