地域共生社会を実践しながら学ぶ!
インクルーシブデザインチャレンジ 2024年度も始まりました。
「インクルーシブデザインチャレンジ」が今年も開催!
誰もが孤立せず、多様な社会参加ができる地域共生社会をめざして。滋賀県長浜市の地域共生社会を実践から考える「インクルーシブデザインチャレンジ!」と実践プロジェクトが今夏もスタートしました。
インクルーシブデザインチャレンジって?
インクルーシブデザインチャレンジは、長浜市社会福祉協議会が主催する「福祉とデザイン研究会」の市民参加型の公開セミナー。「福祉の課題は、福祉の分野で解決する」と考えがちですが、別の分野の人たちとのコラボレーションによってより良い解決をめざすことが狙いです。
インクルーシブデザインとは…
高齢者、しょうがい者、外国人、生きづらさを抱える人など、これまで製品やサービスのデザインプロセスから除外されてきた多様な人々を、巻き込みながら進めるデザイン手法のこと。「インクルーシブ(inclusive)」は「包摂(ほうせつ)的な、すべてを包み込む」という意味を持つ言葉。
そして、インクルーシブデザインの実践プロジェクトとして、福祉分野と他分野が協働する3つのチームが約1年をかけてそれぞれの具体的な課題に挑み、実際に製品やサービスをつくりあげていきます。
2024年7月6日(土)に神照まちづくりセンターで開催された第1回セミナーでは、昨年のインクルーシブデザインチャレンジを通して生まれた実践プロジェクトチーム「グッジョブ×ジョブ」「suinner」「ノリノリ‘s」に加えて、新しく生まれた「滋賀県立北星高校」「わだちプロジェクト」「平和堂」の合計6チームが参加。
会場には、一般参加者含め約40名が集まり、ワークショップや積極的な意見交換を行う充実した時間になりました。
昨年よりパワーアップしたセミナーの様子をレポートしていきます!
先輩実践者たちの言葉を聞く
講師は、インクルーシブデザインを実践し専門とする一般社団法人シブヤフォントの古戸勉さんとライラ・カセムさんのお2人。
一般社団法人シブヤフォントとは…
渋谷でくらし・はたらくしょうがいのある人と、渋谷でまなぶ学生が共に創り上げた文字や絵柄をフォントやパターンとしてデザインしたパブリックデータとして公開、活用する産官学福の渋谷発・日本初のソーシャルアクション。
ライラさんは、デザインを行う利用者さんと活動する時は、その利用者さんにとってこの取り組みに参加することは良いことか、学生と関わることによって良い影響があるかを重視しているとのこと。「しょうがいや福祉に関係する人口を増やし、しょうがいの概念を変えたい」という思いで活動を行っています。
自身が車椅子ユーザーであるアートディレクター・ライラさんは、福祉を「1人ひとりの日々の生活の基盤を支えてより良い生活の質を保ち向上させることができる、誰もが頼ってよい制度及び権利である」と定義しています。
また、インクルーシブデザインとは、誰もが参加できるデザインであり、マイノリティだけでなくマジョリティとの共存の意識を忘れないことが大切。そのためには、マイノリティ当事者と他者との共通点を見つけることが重要なのだとか。
例えば、車椅子ユーザーと警備員、スケボーを楽しむ人の共通点は…?
ライラさんは「通気性が大切」「動きやすくなければならない」などを挙げました。アパレルデザイナーでは服の視点、理学療法士の視点では動作のしやすさなど、立場が違えば異なる共通点が見えてきます。だからこそ、常に自分と他者との共通点を見つける癖をつけることが大切なのだと話します。
就労継続支援B型事務所長として、36年間福祉にたずさわる古戸さんは、「価値観を壊すことや様々な改革を考えるようになったのは、シブヤフォントの活動が始まってからです」と語ります。
昨年のインクルーシブデザインチャレンジについて振り返り、「私自身が、自分に何ができるのか全く分からずに参加していました。そのため、今回のチャレンジに不安を感じている方がいても、まずは参加してみることが大切です」と会場の参加者にエールを送りました。
また、古戸さんは「昨年生まれた3つのチームのプロジェクトが、はじめに想像していた以上に進展していることに驚いています。私自身もこのプロジェクトに大きく影響され、価値観を壊すトレーニングができました。一生懸命に取り組むと面白いプロジェクトだということは保証します。私も一生懸命がんばります」と熱意を込めて述べました。
昨年生まれた3チームの活動を報告!
まずは、昨年のインクルーシブデザインチャレンジで発足した3つのチームの活動報告がありました。
グッジョブ×ジョブ
発達しょうがいを持つ子どもたちの就職支援に取り組む「グッジョブ×ジョブ」。仕事内容が具体的に分かる動画の作成や職場見学、職場体験の場を提供し、自分のしたいことを見つけることで、企業とのよりよいマッチングができることを目指しています。
この取り組みは多くの方に需要があり、今年1月から6月までの間に90名もの若者が参加したとのこと。現在は、料理に興味がある子どもたちのために中華料理屋さんの仕事の動画を作成するなど、活動の幅を広げています。参加後の状況について調査を行うことを今後の課題にあげていました。
ノリノリ’s
コロナ禍でフレイルという虚弱体質の高齢者が増えたことをきっかけに結成したノリノリ’s。「思わず身体が動いてしまう楽しい体操」をテーマにDVDを作成し、長浜市にあるすべての転倒予防教室とサロンにDVDを配布しました。口腔体操のDVD作成やYouTube配信などにも力を入れて精力的に活動しています。
新たな目標は、高齢者だけでなく子どもや外国人の方にも取り組んでもらえる体操を作ることで、健康づくりと交流の一石二鳥をつくりだすことです。
suinner
商品やサービスの開発に「少数派の意見が取り入れられる機会がほとんどないこと」ということを課題に、しょうがいのある方が着やすい洋服の開発を行うsuinner。
まずは、車椅子ユーザーが着やすい冠婚葬祭用のジャケットの開発を始めました。意見交換や議論を重ね、割烹着のような形で前からかぶるように着られる形状の服を試作し、試着会も開催しました。現在は2回目の試作品の制作中で、次回のセミナーまでに完成予定です。
商品のコンセプトづくり〜制作〜販売などのプロセスを多くの方に知っていただくことで、本来の「商品づくりのあり方」について考えるきっかけにしてもらうことを目標にして活動に励んでいます。
次は、今年から参加の3チームの紹介です。
北星高校
北星高校の福祉コースで将来、福祉のお仕事に就く学生を指導している高田先生。
現在3年生17名、2年生8名、1年生7名の合計32名の生徒が福祉コースを選択しているとのこと。
しかし、どんどん福祉に関心を持つ生徒の数が減ってきているのを感じ、何かできることはないかと考え、動き始めました。
わだちプロジェクト
湖北地方道なき道を福祉で拓くタイヤの跡、つまり「わだち」を作り、それが道のようになっていってほしいという願いで立ち上げたわだちプロジェクト。
「しょうがいを社会に伝えていきたい。いろいろな方と関わり、いろいろなアイデアを聞きながらしょうがい者と健常者の壁を越えていきたい。」「福祉業界で活躍していくなかで、限界も同時に感じています。いろんな業界や団体の垣根を飛び越えて真のインクルーシブ社会を作りたい。」と思いを語ります。
平和堂
「地域になくてはならない店づくり」をコンセプトに運営している平和堂。その取り組みの1つが認知症サポーターの養成です。
1万2,000人を超える従業員が認知症サポーターを取得しているものの、取得後に活用する機会がないことやお客さんに認知されていないことが課題です。
また、ゆっくりとお会計ができる「かめさんレジ」も導入していますが、多くの人に認知されていない現状があるそう。「こうすれば買い物がしやすいなど当事者の意見があればぜひお聞きしたい。」と語られました。
3つの実践チーム
次に、それぞれの実践プロジェクトチームごとに分かれて、今年度立ち上がった新しい3つのチームのデザインロードマップを作成するワークショップを行いました。昨年度立ち上がった3つのチームが新規のチームに加わり、アドバイスをしながらデザインロードマップを作ります。
「照れないでどんどん書かなきゃだめだよ!」と参加者から声が上がるなど、積極的に交流し自由なアイデアを出し合いながら、1枚の模造紙に意見をまとめます。
デザインロードマップとは…
・解決したいこと/もやもや・課題
・モチベーション/なんのために?
・活用できるリソース&スキル/メンバーができること
・だれにむけて/ターゲット
・やってみたいこと/青天井
これらの要素をつなげて考える、デザインのための道筋のこと。
3チームがこのプロジェクトで挑戦する課題と、今回作ったロードマップを紹介します。
福祉学科コースを設けている北星高校。「福祉学科コースを選択する子が年々減っている。福祉の魅力を伝えて関心を持ってほしい。福祉を専攻しているが何をしたいのか分からない子に向けて、体感しながら学べるようなワークショップやアクティビティを行っていきたい」と発表しました。
高校生と福祉の構図は興味がある分野と語る古戸さんは「若者に伝えるときには、お金や休みの取り方、辞めた理由なんかのネガティブな所も見せるとリアリティが伝わるかと」とアドバイス。
ライラさんは「福祉の世界に関わることでこんなスキルが身に付くよ。仕事のリアリティを伝えます。と言ってしまってもよいかも。体感を忘れずに伝えていきましょう」と話します。
まずは、平和堂チームの発表です。解決したいことは「もっとみんなにいい顔したい!」そのために、従業員に向けて心弾む従業員研修などを行いたいと意気込みを語ります。
ライラさんは「どうしてもお客さんに対してどうするか、と、考えてしまうところを従業員にしたのがポイントですね。派生効果を考えたときにどうすれば一番お客さんに届くかと考えた結果。各従業員のスキルを考えてマッチングをしていくと面白いのでは。」とアドバイスされていました。
「世界のみんなが(福祉について)他人事ではなくて自分ごととして考えてほしい」「福祉に関心がない人にも不自由さを伝えたい」としょうがいをもつ当事者としての熱い思いを発表。
ライラさんは「不自由さを伝えるだけではなく、不自由さを知っているからこそ乗り越えられることは何か。不自由さをみんなが知ったらどんな世の中になるだろう。福祉と全く関係のない分野とのコラボなど、もうひとひねり、もっと思い切ってよいのでは」と一歩踏み込んで考えることの重要性を指摘。
また、福祉に関心がない人にもしょうがいについて知ってほしいという思いを受けて、古戸さんからは「酒場プロジェクトや観光プロジェクトなど攻める一点を決めて考えていくと具体的になって面白くなるのでは」とアドバイスがありました。
最後に
今回参加したチームの皆さんに、ライラさんから出された宿題はこちら。
- プロジェクトに名前とキャッチコピーをつけること
- ロードマップを完成させること
- 試作化した考案を持ってくること
それぞれのチームが、セミナーで得られた新しい視点を活かして次回までに宿題を完成し、持ち寄ります。次回10月の公開セミナーで、さらにパワーアップしたチームの発表が楽しみです。
最後に古戸さんは、「1年間で社会福祉協議会の方含めてすごく変わったなと感じました。発想を変える、頭が柔らかくなるプロジェクトだなと感じています。時には厳しい意見もありながら、最後に変化が体感できるのがこのプロジェクトの面白さ」と今後への期待を込めて締めくくりました。
今後のスケジュール
今年は新しく3チームを迎え、それぞれの視点から福祉を考える場となった「インクルーシブデザインチャレンジ」。次回は、2024年10月19日(土)に開催予定です。
今回のフィードバックをもとに、それぞれのチームでどんな取り組みが進んでいくのでしょうか。皆さん、ぜひ応援してください。
各チームの取り組みを詳しく聞いてみたい!と思った方は、下記の公開セミナーに聴講者としてご参加ください。(各回15名、先着順)
記事執筆/ 撮影/Miwako Yamauchi