インクルーシブデザインの実践プロジェクトでは、福祉分野と多分野が協働するチームが、約1年をかけて実際に製品やサービスをつくりあげていきます。
全国に170(2025年3月時点)の店舗をもち、地域の暮らしを支える平和堂。
「みんながいつまでも安心してお買い物ができるお店づくり」を目指して、 2024年度には認知症サポーター養成講座を受講したスタッフの「知識」を、現場での「気づき」へと変えるため、実践型の研修を行いました。
今回の記事では2025年度の活動について振り返ります。
「日常のお買い物」のその先へ
2024年度の取り組みでは、認知症の方にお客様として買い物をしてもらい、その様子を見守る、という実践的な研修を行いました。その結果わかったのは、認知症の方が来店していたとしても、そのことに気づくことは現実的に難しい、ということでした。
お客様ひとりをずっと見守っていれば「同じ場所を何度も歩いている」「表示を熱心に確認されている」などの行動に気づくことができます。しかし、常に店内を動いて仕事をする従業員が見守り続けることは至難の業です。
それでは、実際に認知症の方が来店されたとき、どのようなツールや仕組みがあれば安心して買い物をしてもらえるのでしょうか。

お客さまの「目線」はどこに?
2025年7月、現在の案内がどのように機能しているかを体感するために、プロジェクトメンバーは長浜市内の平和堂店舗を訪れました。
各店舗の入り口には各売り場を示す店内図があります。壁面にはそれぞれの商品を案内する文字やイラストもあり、電子看板などによっても各種の案内が行われています。しかし、カートを押しながらじっくりと店内を観察してみると、あることに気づきます。
買いたい商品を探しながら歩くと自然に顔が下を向いてしまい、設置されている案内に視点がゆかないのです。

普段から店舗を見ている平和堂メンバーは看板や案内を認知していますが、他のチームメンバーからは「電子看板があることに初めて気づいた」「言われてみれば壁面に魚のイラストがある」など、驚く声もありました。
「わかりやすい」マップを考える

店舗を観察した気づきから、不安なく買い物をしてもらうためには売り場の「わかりやすさ」がヒントになるかもしれないという意見にまとまりました。
メンバー自身が経験した「看板に気づきにくい」という課題をヒントに、「これなら誰でもわかりやすいのでは?」と考えたのが、手元で常に見ることのできる店内マップです。
ただマップをつくるのではなく、「わかりやすさ」を突き詰めたものを目指して、プロジェクトを動かすことにしました。

2025年9月、プロジェクトにデザイナーとしてむらかみともこさんが加わりました。むらかみさんは、長浜市内で活躍するグラフィックデザイナー。紙をつかった工作などのワークショップも得意としています。
まず行ったのは、「店内マップ」をつくるのであれば、認知症の方やお買い物に不慣れな方にとって何が「わかりやすい」のかを考えることでした。
たくさんの商品が並ぶ店内で迷うことなく目的の場所に辿り着けるような仕組みにするには、どのようなマップをつくる必要があるのでしょう。
「情報の詰め込みすぎは、かえって混乱を招く」というデザイナーの視点から、今回は必要な情報を厳選し、引き算をしながらデザインをすることになりました。
マップを使う人の視点に立って、例えばこのような内容にも気を配り、デザインの専門的な知識も交えながら議論が進んでいきます。
- 情報量:現在の店内案内よりさらに記載する項目を厳選する
- 文字の大きさ: 目の見えにくい方でも読みやすいよう、JIS規格を参考にした大きな文字を採用
- 言葉の工夫: 「レジ」という言葉が伝わらない場合を考え、「お会計」や「お金を払う場所」といった直感的な表現を検討
- カートへの設置: 買い物中に常に視界に入るよう、クリップでカートに取り付ける仕組みを検討
そして、マップの制作を進める中で、さらに一つの疑問が出てきました。
それは、「マップをみて、自分が今お店の中のどこにいるのかわからなくなった場合」です。
認知症の方や子どもは、見慣れた場所であっても空間を認知したり地図を読んだりすることが不得意です。マップがあったとしても、「自分がどこにいるのか」がわからず不安になるかもしれません。
たとえば、マップと連動した目印が店内にあるのはどうだろう、その目印はどうしたらより気づいてもらいやすくなるのだろう。そんな議論が現在も続いています。
正解はまだまだ模索の途中です。しかし、現場での観察や日々の業務の中で見つける一つひとつの気づきが、「誰もが安心して通えるお店づくり」に向けた着実な一歩となっていきます。

この記事を書いた人 | 荒井恵梨子
